教室情報誌「なでしこ」の今月の用語で取り上げました「スマホ農場」。
こんな言葉ご存知でしたか?
私はこの「スマホ農場」という言葉をはじめて聞いた時、「農場」と聞いて、未来のスマホを作るために、スマホ自体を実験的に育成する設備のことかな?
あるいは、スマホで管理できる野菜栽培システムなのかな? なんて思っていました。
ところが、まったく違いました。
育てているのは、「スマホ」でも「野菜」でもありませんでした。

育てているのは、野菜ではありません
何百台、ときには何千台ものスマートフォンを、棚にずらりと並べる。
そして、SNSの「いいね」や動画の再生回数を、機械的に押させる。
それが「スマホ農場」と呼ばれる場所です。
棚に並んだスマホが、合図といっしょに、いっせいに同じ投稿へ「いいね」を押します。
また、棚に並んだスマホは、一斉にある人のフォロワーになります。
誰かの動画を再生します。
そうして水増しした数字が、「フォロワー千人でいくら」という値段で売られていきます。育てているのは、偽物の人気です。
もともとは、人件費と電気代の安い国——中国、インド、ベトナム、フィリピンなどで広がりました。何千台ものスマホを一日じゅう動かしておく商売ですから、電気代の安さがものを言うのだそうです。
人を雇って、ひたすら指で押させる方式もあるそうですが、さすがに効率が悪いので、こんな「スマホ農場」と呼ばれる場所が作られたんですね。
そして、日本にもあるそうです。茨城県つくば市の周辺に、いくつもの拠点があると報じられています。
身に覚えのないメールの、裏側にあるもの
この偽物の数字の売り買いで、世界では数千万ドル規模のお金が動いたとされています。
広告を出している会社の2割ほどが、「人が見たのではない広告に、広告費を払わされていた」。
つまり「スマホ農場のスマホ」が自動的に広告を再生し、それでも1回と数えられるわけですから、その回数に対して広告費が支払われた、ということでしょう。そういう調査もあるそうです。
そして、もうひとつ。
何百台ものスマホを一度に動かせる設備は、詐欺のメッセージを大量に送りつけるのにも、いくつもの偽アカウントを動かすのにも使えてしまいます。
身に覚えのないショートメールが、次から次へと届く。私のところにも、生徒さんのところにも、よく届く。そこには、こんなカラクリがあったわけです。人が送ってるんじゃないんだ、ってことですね。
「どうしてこんなに来るのかしら」と教室でもよく聞かれますが、送っているのは机に向かった誰かではなく、棚に並んだスマホの群れだったのかもしれません。
数字は作れても、中身は作れません
でもいちばん気をつけたいのは、「フォロワーを買いませんか」「いいね、を買いませんか」ということでも、詐欺メッセージでもないと思っています。
「買いませんか」と言われたこともないし、もとより買う気もありません。
詐欺メッセージだって、無視です。無視!
それよりも怖いな、と思うのは、「たくさんの人がそう言っている」という空気まで、お金で作れてしまうことです。
「いいね」も操作できる。「フォロワーの数」も操作できる。
世の中の声のように見えるものが、実は棚の上のスマホだった。そういうことが、起こりえます。
この投稿には「いいね」が多いから、とか。
この人はたくさんフォロワーいるから、とか。そういうものが実はお金を払った結果だったとしたら。
誰がどんな意図で、お金を払ってまで世論を操作しようとしているのか、それを考えるのもちょっと怖い感じがします。
もちろん、放っておかれているわけではありません。SNSの会社は偽アカウントの一斉削除を続けていますし、イギリスでは、SIMカードを何枚も一度に差し込んで使える機器を、正当な理由なく持つことを禁じる法律ができました。
それでも、私たちの側でできることが、ひとつあります。
「いいね」が多いから正しい。フォロワーが多いから信用できる。そう決めつけないこと。
数字はいくらでもつくれますが、書かれている中身までは、なりすませません。
「スマホ農場」なんて場所があることを知ったら、「数は作れるんだ」と覚えておかなくてはいけません。
お店を選ぶときも、健康の情報を読むときも、投資の話を見かけたときも。
皇室関連の投稿も、政治家や政治に関する投稿も。
数字の大きさではなく、書いてあることそのものを読む。そして自分の頭で判断する。
ずいぶん古風なようですが、これがいちばん確かな見分け方だと思います。
ちなみに、「いいね」の数はあとから買えても、コメント欄の中身まで買いそろえるのは難しいものです。数字は大きいのにコメントが妙に短い、似たような文ばかり並んでいる——そんなときは、少し立ち止まってみると、見えてくるものがあります。
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